愛犬 コロ

                8

 この頃、毎日がちょっと辛くなってきた。もうすぐ、天国へ行くのかな。天国ってどんな所かな。なんか知らないけど、亡くなった後、楽しいことが待っているような気がする。怖いことなんか無いよね。自分に言い聞かせていた。
「コロ、今日は飲み会だから、帰りが遅くなるかも知れないけど、元気でがんばるんだぞ」
そう言われても、無理なような気がする。ボクの体は、もうボクのモノじゃないみたいだ。あと、どのくらい生きられるだろう。
「あれっ、今日は早いじゃないか」
「これから飲み会なんだけど、コロが心配になって帰ってきたんだ。コロどうしてる?」
「どうって、別に変わらないようだが」
「そう、でもなんか心配だから、犬小屋に行ってみるよ。コロ~」
ボクは、力の限りしっぽを動かした。もう立つ力が残っていないのだ。少しでもいいから、立とうとした。
「コロ、無理すんな。じっとしてろ」
ボクは、飼い主の腕の中に抱き上げられ、頭をなでられた。とてもいい気分だ。楽しかったことが、いっぱい頭の中から溢れてくる。
 この家に来た時、夜ずっと泣いていたこと。ボクの頭脳が、優秀で褒められたこと。そして、病気になったこと。次から次へと浮かんでは消えた。
 飼い主の腕の中で、ボクの心臓は止まった。だんだん体が硬くなる。
「コロ~、コロ~」
すすり泣くように、悲しそうに、ボクを呼んでいる。
 ボク、こんなにも愛されていたんだ。初めて気がついた。今まで、それが当然と思って気がつかなかった。いつまでも、ボクを呼ぶ声が聞こえる。
 ボク、楽しかったよ。
 おじいさんと飼い主は、ボクを火葬場に持っていった。菊の花束と一緒に……。
「一時間ぐらいで焼き終わりますから」
「よろしく、お願いします」
 ボクのお骨は、白い布に入れられ、お寺に運ばれた。
 お寺では、和尚さんが、卒塔婆を書いていて下さいました。
「どこに埋めるんですか」
「家のお墓の横に、埋めたいと思います」
「それがいいでしょう。コロちゃんも、寂しくないでしょうし…」
お骨を埋め、卒塔婆を立てて、和尚さんの読経が始まった。ボクは、これでやっと天国に行けるなと思った。
 みんな、ありがとう。ありがとう。ありがとう。

f:id:otokonoromankurabu:20200620140350p:plain

                         (写真はイメージです。)