愛犬 コロ

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 ワーイ、ワーイ、初めてのお散歩だぞ。ボクはこっちに行くぞ。あれっ。こっちだってば、どうしてそっちに行くのさ。そっちには行きたくないよ。ちぇ、しょうがないなあ。じゃそっちに行くか。
 ウーン、ウーン、どうしてこんなに首が苦しいんだろう。もっと速く走りたいよ。
『ギャン~』
なんてことすんだよ。あぶなく死ぬところだった。何で急に思いっきり引っ張るんだよ。
後ろに転がったじゃないか。
「やっぱり、躾は小さいうちからしっかりしておかないとな。ちゃんと傍にいるようになったぞ。よしよし」
じゃ、いいよ。おしっこ、おしっこ。うんちもしたくなったぞ。うんち、うんちっと。あれっ、どうして引っ張るのさ。今ゆっくりうんちするんだから…。うんちが道にとぼとぼ落ちてるよ。みっともないなぁ。全然ボクのことなんか考えてないんだから……。
 広いところに着いたぞ。リードも外されて、こりゃいいや。自分の好きなように出来るぞ。ワーイ、ワーイ。これが自由っていうのかな。誰にも縛られない生活。いいなぁ。
「コロ。コロ~。帰ってこい!」
あれ、帰れって言ってるよ。誰が帰るもんか。せっかくつかんだ幸福を捨てる犬があるもんか。
「コロ~。危ないぞ。速く逃げろ~」
何言ってるのさ。だまされないぞ。
『ウー、ゥワン』
どっひゃー、何で、こんな、でかい犬がいるんだよ。それに、リードもしてないじゃないか。こっちへ走って来るよ。助けてぇ。食い殺されるよー。
「こっちに来るんだ。速く」
ボクは、飼い主に飛び込んだ。飼い主はボクを抱えると、でかい犬に向かってなんか言ってる。英語かな。意味わかんないや。でも、でかい犬は、別の方へ行っちゃった。危機一髪だったなぁ。飼い主の言うことも聞かないと、えらいことになっちゃうな。それからボクは、おとなしく横を歩いていた。

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 すると、今まで溝にフタがしてあったのに、無くなってる。ずっと下に底があるぞ。近づいてみると、鉄の柵みたいなフタだ。ボクの脚が入っちゃうよ。これじゃ、おっかなくて歩けないや、遠回りしようっと……。
 よし、ちょっと遠いけど、安全第一だもんな。あれっあれっ、今度は遠回りするところがないよ。飛べる距離じゃないし。うーん、抱っこしてくれないかな。見上げると飼い主は、知らんぷりしている。なんか試されてる感じだ。やっぱり渡るしかなさそうだ。ボクの細い脚では、穴に落ちてしまうし、困ったなぁ。もっと、近づいてみるか。まてよ、あの柵と柵が繋がっている部分が、厚くなってる。大発見だ。あの部分を渡っちゃおう。ゆっくり、ちょっちょいのさ。
 渡り終えると、飼い主に抱っこされた。
「すごいぞ。お前は、天才犬だ」
ほめられて悪い気はしない。
 しかし、抱っこすんなら渡る前にしてほしかったな。
                      (写真はイメージです。)