愛犬 コロ

              2

 ボクは、段ボールに入れられたまま、飼い主の家に連れてこられた。
 その家には、おじいさんとおばあさんが住んでいた。おじいさんは、なんとめんこい犬だなと言った。ボクってどこに行っても正当な評価を受けるんだと思った。
 ところが、ところが、おばあさんはボクの顔を見るなり、どっかに捨てに行ってこいと言った。
 あらら、こんなにかわいいボクをすぐに捨てろだなんて、このばあさんは要注意だぞ。気をつけなくっちゃな。
「誰が世話するのよ。私は嫌ですからね。動物が嫌いなことぐらいわかっているでしょうに……」
「わかったよ。ぜんぶ世話は、俺がするよ」
「それと、なんかその犬、臭うわよ、臭くて置いておけないわよ。まったく……」
「どれ、あれっ、ほんとだ。コロ、おばあさんに嫌がられるから、きれいにしような」
ボクは、風呂場に連れられていかれた。すると、屋根があるのに雨が降ってきた。あちゃー、壁から雨が降ってるよ、この家。大変だ。逃げるところがないや。
『キャンキャン!』
「初めてだから、嫌がってるんだな。でも、ダメだぞ。キレイキレイにしないと、本当にばあさんに追い出されるぞ。ガマンするんだぞ」
雨は上がって、今度はネターッとしたものを体にかけられた。かけたところを飼い主がゴシゴシやると、あ~ら不思議。モコモコと泡が出てきた。
「ほら、きれいになるって、気持ちいいだろ。今度は手を出して……。あれっ、4つとも足か。じゃ右の前足から洗うぞ……」
「ダイブきれいになったな。それじゃすすぐか」
『キャンキャン!キャンキャン!』
「こら、じっとしてなさい。泡だらけのままじゃ、女の子にもてないぞ」
『キャンキャン!キャンキャン!』
「ありゃ、こりゃ熱いや。やけどしちゃうよ。熱いなら熱い!って言ってくれよ」
さっきから、熱くて嫌だって言ってるのに、全然聞いてくれないんだもの。
「このぐらいの温度ならいいだろう。コロ~。今度は大丈夫だからな」
えへっ、このぐらいならちょうどいいや。いい気分だな。なんか、初めてきれいになった気がするなぁ。それにとってもいい匂いだ。これじゃ、女の子は黙ってないだろうなぁ。
 ふむふむ。妙に納得するんだよなぁ。
                      (写真はイメージです。)

f:id:otokonoromankurabu:20200608091203p:plain