愛犬 コロ

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 ボクは、4人兄弟の末っ子。お母さん、お兄ちゃんに可愛がられて、平穏で楽しい生活を送っていた。
 すると、そこの御主人が、
「家に、4匹も要らないよなぁ。明日、学校に行って、誰かもらってくれる人がないか、聞いてみる」

ってことは、4匹のうち何匹かは、別のところに行っちゃうんだ。

ボク?じゃないよな。だって、ボクが一番可愛いんだもん。
絶対、違うよ。

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 次の日、ボクは、段ボール箱に押し込まれた。
 初めて車に乗って、ゆらゆら揺られて行った。ボクは箱の中であっちにぶつかり、こっちにぶつかり、まるで芋洗い状態だよ。いい加減にしてほしいなぁ、と思っていたら、揺れが止まった。どこかに着いたみたいだ。
 ふたを開けられ出てみると、やけに人が多いところだった。それも若い子ばっかりだ。
「キャー、カワイイ!」
「チョー、カワイイ!」
若い子特有の、黄色い声が上がる。
 やっぱり、ボクって可愛いんだ。どの子かなぁ、ボクの飼い主になる人は…。できたら、きれいなお姉さんタイプがいいな。こっちの子かな。それともあの子かな、と思っていたら、
「キーン・コーン・カーン・コーン」
鐘みたいなのが鳴ったぞ。あれ、あれっ、みんなどこに行くのさ、チョー、カワイイ、ボクを置いて……。どうしたんだろう急に……。(後で聞くと、鐘みたいなのは「チャイム」というもので、人間を誘導するものらしいことが判った)
 誰もいなくなったら、やけに寂しくなった。ちぇ、じゃあボクは冒険に出掛けちゃうんだ。ここは広いから、思いっきり走っちゃうぞ。ワーイ。ワーイ。こんな広いとこは初めてだ。思いっきり走ったのに、まだ半分も来てないや。ちょっと疲れちゃたな。
 すると、ちょっと太った男の人が、なんか言ってる。
リヒャルト・シュトラウスリヒャルト・シュトラウス!」
なんのこっちゃ。呪文かなんかを唱えているのかな。すると、
「ウォルフガング・モーツァルト!ウォルフガング・モーツァルト!」
なんだ、なんだ。何のまじないだ。
「ちょっと長いのかなぁ。もっと短いのにするか。ワーグナーワーグナー!」
頭のおかしい人には、やっぱり近づかない方がいいよな。無視!無視!
「コロ~!コロ!」
あれ、きれいな女の人がボクを呼んでるぞ。早く行ってみようっと。
「外国の音楽家なんて、日本の犬には無理なのよ。コロって呼んだら、すぐに来たじゃない」
「う~ん、コロって、ありきたりなんだよな、でも、しょうがないか。よ~し、お前の名前はコロにすることにした。よろしくな、コロ」
ボクの名前だったのか、そんなら、もっとかっこいいのにすれば良かった。それより、ボクの飼い主って、きれいなお姉さんの方じゃないのかよ。
 ショック。あぁ大ショック。
                        (写真はイメージです。)